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子どもの「運動が苦手」「不器用」には理由がある― 発達性協調運動障害(DCD)を知っていますか?

「運動が苦手」「縄跳びがうまくとべない」「ボール運動が苦手」「字を書くのにとても時間がかかる」「靴ひもが結べない」「自転車にいつまでも乗れない」――。そんな子どもの姿を見ると、私たちはつい「運動神経がわるい」「体を動かすのが不器用」「練習不足だから」と考えてしまいがちです。しかし、その背景に**発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)**という発達特性が隠れていることがあります。
DCDは、知的発達や視力・筋力などに明らかな問題がないにもかかわらず、運動の習得や実行が年齢相応より難しい状態を指します。海外では小児期の発達障害の一つとして広く知られていますが、日本ではまだ十分に知られていないのが現状です。本コラムでは、DCDの基本的な理解と、福岡県で暮らす私たちができる身近な支援についてご紹介します。
決して珍しくないDCD
海外の研究では、DCDは学齢期の子どもの約5〜6%にみられると報告されています。これは1クラスに1〜2人いる計算になります。注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)と併存することも多く、「運動の困難さ」が見過ごされやすい点も課題です。
日本では診断や支援体制がまだ十分に整っておらず、「不器用な子」「運動が苦手な子」と誤認識され、支援につながらないケースも多いのが現状です。
DCDは「病気」?それとも「特性」?
「DCDは病気ですか?」という質問をよく受けます。答えは少し複雑で、病気というよりも“脳の特性”と考える方がしっくりきます。
ここで、脳をパソコンとして考えてみましょう。DCDのある子どもの脳は、壊れたパソコンではありません。性能が低いわけでも、処理能力に問題があるわけでもありません。ただ、初期設定や操作のしかたが、一般的なパソコンとは少し違う状態に近いと考えられます。たとえば、同じ性能のパソコンでもキーボードの配置が少し違う、ショートカットキーの設定が異なる、といった違いがあると、操作に時間がかかったり、思い通りに動かしにくかったりします。その状態だと、「このパソコンは動きが遅い」「使いにくい」と感じてしまうかもしれません。
しかし実際には、設定を調整する、操作のコツを知る、自分に合った使い方を覚えることで、作業はずっと楽になり、本来の力を発揮できるようになります。
DCDのある子どもも同じで、能力が足りないのではなく、動きを学ぶための設定や手順が少し違うだけなのです。医療の現場で診断名がつくことがありますが、それは「この子はDCDだ」「障がいを有する子どもだ」と決めるためのものでは決してありません。その子に合った設定(教え方・環境・支援)を見つけるための手段として考えていただくのがいいかと思います。
脳の特性だからこそ、ちょっとした工夫で変わる
DCDのある子どもは、運動ができないのではなく、運動の学び方が少し違うと考えられています。たとえば、多くの人は「見てまねる」だけで自然に身につく動作も、DCDのある子どもには、
* 動きを言葉で説明する
* 一つひとつの動作を分解する
* 成功しやすい環境を整える
といった工夫が必要なことがあります。
これは、自転車にたとえるとわかりやすいかもしれません。最初から補助輪なしで乗れる人もいれば、補助輪があると安心して練習できる人もいます。補助輪は「甘え」ではなく、上達するための道具です。DCDの支援も同じで、適切な道具や関わりがあれば、できることは確実に増えていきます。
「楽しめること」がいちばんの近道
DCDの支援で何より大切なのは、“本人が楽しめること”です。運動が苦手な経験を重ねると、「どうせできない」「やりたくない」という気持ちが先に立ってしまいます。すると、本来持っている力も発揮されにくくなります。
一方で、
* 少し工夫したらできた
* みんなと同じでなくても参加できた
* 得意な動きが見つかった
といった経験は、自己肯定感を下げるどころか、高める力になります。
運動が得意な方や大人の方も、思い出してみてください。初めてスキーやスノーボードをしたとき、最初は思うように体が動かなかったのではないでしょうか。何度も転び、コツをつかんで、少しずつ楽しくなっていった——DCDのある子どもが感じているのは、あの「最初の難しさ」が日常のあらゆる動作にある状態なのです。

運動が“苦手=DCD”ではありません
ここで大切な点があります。運動が苦手だからといって、すべてがDCDというわけではありません。
私たちは誰しも、得意・不得意という特性を持っています。歌は得意だけれど絵は苦手、計算は速いけれど文章を書くのは時間がかかる——それと同じで、運動にも個人差があります。また、
* 幼少期に外遊びの機会が少なかった
* コロナ禍などで運動経験が限られていた
* 苦手意識から運動を避けてきた
といった理由で、純粋に「経験不足」なだけの場合も少なくありません。
たとえるなら、これは「楽器」に似ています。ピアノにほとんど触れたことがない人が、いきなり上手に弾けないのは当然です。しかし、それは才能がないわけでも、脳に問題があるわけでもありません。十分な練習時間と、合った教え方があれば、音楽は誰でも上達します。
DCDの場合は、この”練習”や”教え方”を特に工夫する必要がある状態、と考えると理解しやすいでしょう。大切なのは、早合点して決めつけないこと、そして一人ひとりに合った関わり方を探すことです。

診断より大切なもの
DCDは「できないこと」に注目されがちですが、本当に大切なのは、“どうすればできるか”“どうすれば楽しく続けられるか”です。診断は支援につなぐための入口にすぎません。
脳の特性を理解し、適切なアプローチを選び、成功体験を積み重ねること。その積み重ねが、子どもの将来と自己肯定感を守ります。
「不器用だから仕方ない」ではなく、「やり方を変えれば伸びる」。そんな視点が、DCDへの理解を広げる第一歩になるでしょう。
早期理解が子どもの心と将来を守る
DCDの困難さは、成長とともに自然に消えるとは限りません。小学校高学年から思春期にかけて、運動場面だけでなく、自己肯定感の低下や学校生活への不適応、不安や抑うつといった二次的な問題につながることもあります。
一方で、早い段階で特性が理解され、適切な関わりがあれば、困難さを工夫で補い、自分の得意分野を伸ばしていくことができます。「できない理由がわかる」こと自体が、本人と家族にとって大きな安心につながります。

家庭・学校・社会でできること
DCDへの支援は、特別なことばかりではありません。日常の中での小さな工夫が大きな助けになります。
●家庭でできること
* 結果よりも「工夫」や「頑張り」を認める
* 動作を細かく分けて、一つずつ練習する
* 時間に余裕をもたせ、急かさない
●学校でできること
* 体育や作業での評価を一律にしない
* 道具やルールを調整する(大きなボール、回数を減らすなど)
* できない理由をクラス全体で共有し、からかいを防ぐ
●地域・社会でできること
DCDは目に見えにくい障がいです。しかし、知ることで見え方は大きく変わります。「なぜできないのか」が理解される社会は、子どもだけでなく、大人にとっても生きやすい社会につながります。福岡県から、DCDへの理解と支援の輪が広がることを切に願います。
専門職による支援と相談先
理学療法士や作業療法士は、運動発達や日常動作の専門家として、DCDのある子どもへの評価・支援を行います。福岡県内にも、医療機関や発達支援センター、療育施設など、相談できる窓口があります。
「少し気になる」「相談していいのかわからない」という段階でも、専門職に話すことで新たな視点が得られることがあります。
【参考文献】
- American Psychiatric Association. (2022).Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.; DSM-5-TR).Washington, DC: Author.
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- Wilson, P. H., Smits-Engelsman, B., Caeyenberghs, K., Steenbergen, B., Sugden, D., Clark, J., … Blank, R. (2017).Understanding performance deficits in developmental coordination disorder: A meta-analysis.Developmental Medicine & Child Neurology, 59(7), 716–726
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- Li, H., et al. (2024).Prevalence of developmental coordination disorder: A systematic review.Frontiers in Pediatrics.
- 厚生労働省.発達性協調運動症(DCD)支援マニュアル.厚生労働省資料.