2024.12.23
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薬も大切ですが、運動と食事も重要です

薬も大切ですが、運動と食事も重要です

 血糖値が高めな方を集めて、「何もしない群」「糖尿病を予防する薬を飲んでもらう群」「食事と運動で体重を7%減らす指導を受けた群」の3群を数年間フォローした結果が報告されています。その結果、薬によって30%程度糖尿病の発症を抑制しましたが、食事と運動による介入では57%程度糖尿病の発症を抑えた、という結果でした。食事と運動の重要性を認識していただきたいです。

 「養生訓」という本を知っていますか?日本の歴史の授業で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。「養生訓」は、江戸時代の本草学者・儒学者の貝原益軒(1630-1714年)が、亡くなる1年前の83歳の時に出版した本です。益軒は、福岡県の生まれで福岡藩士であり、福岡県に縁のある人物でもあります。

「養生訓」は、健康で長生きするための指南書で、バランスの良い食事と適度な運動、良質な睡眠、心を穏やかに保つことの重要性などが書かれています。その中で、以下のようなことが書かれています(図1)。

人の身は百年を以て期とす
上寿は百歳、
中寿は八十、
下寿は六十なり
六十以上は長生なり。
  ‥‥‥‥‥‥‥‥
短命なるは生まれついて短きにあらず
十人に九人は皆自らそこなえるなり。

 人は、60歳以上生きれば長生きであり、短命は生まれつきではなく、多くが自分の生活習慣の乱れが原因で早死にしていると述べています。江戸時代平均寿命が40歳を下回っている時代に、認知症や寝たきりにならず、83歳に到達した点からも、とても説得力があります。

図1:貝原益軒「養生訓」

 その後、科学が進歩し、生活習慣を見直すことでどれくらい病気を抑えるか数字化されるようになりました。1979年米国の報告によると、疾病に寄与する4つの要因とその比率として、環境要因が20%、遺伝的要因が20%、ヘルスケア・システムの不適切さが10%、そして最も大きな要因として上がっているのが「不健康な生活習慣・行動様式」で50%と、益軒のいう「10人に9人が自ら損なう」とまではいきませんが、生活習慣が大きな要因を占めることが報告されています。

 さらに2014年、これも米国のデータですが、修正可能な危険因子として、喫煙、高血圧、高コレステロール、2型糖尿病、食生活、運動不足などや地理的特性(経済、人口、環境など)を挙げ、それらを正すことで米国の五大死因(心疾患、がん、慢性下気道疾患、脳血管疾患、不慮の事故)を21%から39%抑制することができると報告しています(図2)。

図2:疫病に寄与する4つの要因とその比率

やはり、益軒が指摘しているように、皆自ら損なえているのです。

 それでは、生活習慣を見直すことで、どれくらい効果があるのでしょう。多くの報告がありますが、その中でもインパクトが大きい報告を紹介します。血糖が少し高めで、まだ糖尿病を発症していない人を集め、無作為に、「偽薬を与える群」「インスリン抵抗性改善薬を投与する群」「生活習慣を見直し食事や運動で7%の体重減を目標とした指導を行う群」の3群に分け、4年間経過を追った研究です。図3にありますとおり、自然経過である偽薬群と比べ、薬を投与した群では約3割、糖尿病の発症を予防していますが、さらに効果が大きかったのは、生活習慣の見直しを行った群で、こちらは約6割の抑制効果を認めました。必要なお薬は内服すべきですが、食事や運動に取り組むことは、とても大きな効果を生むことが見て取れます。

図3:糖尿病の予防 薬VS生活習慣の修正

また、わが国の労働者を対象にした報告でも、体力がある人ほど、糖尿病になるリスクが約4割、がんによる死亡が6割程度抑制されることも報告されています(図4)。

図4:運動でがん死亡率も減少

 「養生訓」では、「人の身は百年を以て期とす」と述べているように、近年着目されている「人生100年時代」の到来も予測していました。また、身体を動かすことの重要性を以下のように述べています。

身体は日々少しづつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃(ていほ)の内数百足しずかに歩行すべし。雨中には室屋の内を、幾度も徐行すべし。此如く日々朝晩運動すれば、針灸を用いずして、飲食気血の滞りなくして病なし。針灸をして熱痛甚しき身の苦しみをこらえんより、かくの如くせば痛みなくして安楽なるべし。

自らその人生を損なうことのないよう、これを機会に、みなさま自身の生活習慣を見直してみませんか。

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